2013年9月22日日曜日

「早く、リニア新幹線つくれ」と、前のめりの突っ込み

 リニア新幹線の完成をオリンピック開催までにもってこいとの「圧力」がかかっている。「おいおい違うだろ、開催までには福一や被災地の復興が相当できていなくちゃならないだろう」という突っ込みはさておいても、JR東海幹部が試験運転ぐらいならと言っているものを、無理矢理急がせるとはいったい何を考えているのかと、これも報道番組の切り口になっている。

 リニア新幹線の完成をオリンピック開催までにもってこいとの「圧力」がかかっている。「おいおい違うだろ、開催までには福一や被災地の復興が相当できていなくちゃならないだろう」という突っ込みはさておいても、JR東海幹部が試験運転ぐらいならと言っているものを、無理矢理急がせるとはいったい何を考えているのかと、これも報道番組の切り口になっている。

 1964年の東京オリンピックの振り返りが、いいことばかりだったと描くことだけでは、皮相でものたりない内容になると思う。象徴的に思うのは、日本橋の「橋」で、東京オリンピックのための首都速道路建設によって、江戸の歴史も何もなく後景に追いやったものを、今懸命に復活させようと取り組んでいるとうこと。オリンピックの後遺症がいまになって復活かよと思ってしまう。(しかしこれとて、公共事業の理由づけか)

 「♬あの日ローマで ながめた月が きょうは 都の 空照らす四年たったら また会いましょと 固い束 夢じゃないよいしょ コリャ 夢じゃない オリンピックの 顔と顔 ソレトトント トトント 顔と顔♬」って日本中で踊っていた。でも、ことは浮かれているのとは、ちょっと違った様相で流れた。

 象徴の一の新幹線建設は、日本の歴史の一コマとしても知っている人は多い。しかし、これが日本の経済を支えたことを全く否定はしないが、経済効果とか損得勘定はどうなのだろう。国鉄が、オリンピック以降新幹線を造りまくって膨大な赤字を抱え込むことになった。おいしいところだけ分割民営化して赤字を清算事業団に被せた。これに本四架橋や青函トンネルの債務までのっけて、国の一般会計から補てんしたという歴史も、オリンピックの経済効果、損得勘定の中に組み込まれなくてはならないだろう。二の舞を避けられるのだろうか。



安全な技術開発ができるのかという疑問もある。技術的なことなど言えるわけもないが、時速500キロという車両を売るための実験台にされるのではかなわない。絶対の安全でなくてはならない。放射能汚染の影響も象徴的だが、安全安心という尺度は、日本では人権の軽視と同様に扱われている。地震の影響はわかり易いが、それよりその速さの移動が人間にとってどういう影響を与えるのかということだってあるだろう。40分であれ閉じ込められるのだから、宇宙飛行士なみの訓練や講習なんて…。いくぶん冗談にしても、起きうる事態について十分な検証がいるのではないかと思う。

完成を急いで、本当は必要な開発、検討が手抜きになったのでは安全はないがしろになっていく。超音速旅客機コンコルドは開発段階から大赤字が見込まれたが、止めることができずに実用化に踏み込んで、墜落事故を起こしたすえに、「退役」した。ボーイング787は実用が2年遅れた。完成を目指すのに目途はあるにしても、「オリンピック競技」とは違うのだから前倒しを自己目的にした開発などは危険すぎることではないか。イプシンロケットは発射を遅らせることになった。

ドイツはリニア鉄道の開発は止めたという。事情はわからないが、経済効果や安全技術、環境などを考慮して、あわないという結論になったのだろう。経済効果は、もちこんで使う要素でいくでも創作できる。あとから確かめるなどということは日本の現世には存在しないらしいが、アクアラインだって値下げしてから利用頻度があがっている。国土交通省の計算とはちがった事態で推移しているわけだから、いわばあとは野となれ山となれというくらいで、済まされていることだ。検証をしていくことも必要なのだろう。

こうひとつは、自然に対する影響だ。電磁波の影響もあるだろうが、その建設によってどれだけの自然界に対するダメージを呼ぶかということ。地下が多いとなれば水脈を切断することになることは間違いない。山に穴をあけて、ほかの山を壊して持ってきた砂利や砂をどれだけ使うことになるのか。沿線に今生息する鳥や獣には影響はどれだけ及ぶのか。絶滅危惧種は毎年のように増加しているが、影響はどれだけ及ぶのかということも考えなくてはならない。この経済効果のマイナスも積算されるべきものだが、このマイナスは金額だけでないことはもちろんだ。


北海道のJRは特急列車の最高速度を落とすことになった。運行回数も減らすことを決めた(913日)。デーゼル使用という特別な条件があるにしても、走行スピードが高い方が第一という物差しは、通用させちゃならないという結果になった。思うに、リニア新幹線を利用するのはビジネスが主だろう。これまでの新幹線なら、半日の移動時間と残りの「営業行動」だった。それがほぼ一日の「営業行動」となる。会社の売り上げは倍増となる。これで賃金が業務量見合った増になるのか。7年後には、なお高齢化が進んで乗客数が採算にみあったものになるのかどうかという指摘もある。