川崎健氏(東北大学名誉教授)の講演だった。海産物は、日ごろから身近に感じているものなので、どんな状況にあるのかと将来どうなっていくかが知りたいと思って参加してみた。かなり膨大な内容を一時間半ばかりで、飛ばした話だったので、つかみきれないが、資料でいただいたものがわかり易い説明だったので、書き抜きしてみた。
海水のモニタリング調査
(1)
第一原発のごく近くの測定ポイントでは、汚染水を放出した事故直後にはセシウム137の濃度は100000Bq/Lに達したが、その後は急速に低下して、2013年5月には1Bq/L前後である。
(2)
沖合の測定ポイントでは、2011年9月には0.01で原発周辺に比べればかなり低いが、その後低下している。
(3)
事故以前の福島県沖では、1976年当時は0.006~0.008Bq/L程度であったが、1998年~2008年には、0.002程度に下がっている。1976年~1987年当時高かったのは、それまでの大気中核実験、1979年のスリーマイル島事故、1986年のチェルノブイリ事故などの影響だと思われる。沖合水域の現状は、福島事故以前に近い。これは拡散するからである。
海底土のモニタリング調査
(1)
原発にごく近い測定ポイントではセシウム137の濃度は、2012年4月には1000Bq/Kg程度であったが、2013年5月には週100Bq/Kgに低下している。原発からかなり南でも、数十Bq/Kgある。
(2)
沖合の測定ポイントでは場所によりばらつきがあるが、現在はセシウム137で数百Bq/Kg~5Bq/Kgである。
(3)
福島県・茨城県沖合では、歴史的にみると1983年以後、セシウムで5Bq/Kg以下であったが、現状はそれよりはるかに高い。特にこの点が海水との違いで、放射性物質が海底土に吸着されているからである。
水産生物の種別の汚染経過
(1)
表層魚類の汚染度は低い。
(2)
底生魚は生息水深100m以深のものは、汚染度が低い。
(3)
ごく浅いところに生息する貝類は福島沿岸では事故以後強く汚染されたが、その後は急速に低下した。こらは、海水の汚染濃度が低下したためである。
(4)
海藻類も同様である。
(5)
メバル類(100m以浅)は汚染度が高いが、2013年に入って低下傾向である。
(6)
ウニ類は事故後高い汚染を示したが、その後急速に低下している。これは、食物が海藻だからである。
(7)
スズキ(中層魚)は、高い汚染が続いている。これは底生のイカナゴなどを食べているからであろう。
(8)
水深100m以浅に生息しているカレイ類は汚染度が高い。海底では浅いところの汚染が強い。また、これらは汚染された底生無脊椎動物(エビ、カニ、ゴカイ、ワレカラ)を食べている。しかし、今年になって汚染度が低下してきている。低下の理由は(1)放射能の減衰と(2)生理的排出である。
(9)
底層に生息するメバル類も、同様な傾向を示す。
(10)
淡水のイワナ・ヤマメは強く汚染されたが、今年に入って汚染度は低下している。
海水魚と淡水魚の汚染機構の違い
・
海水魚は汚染物質を排出するが、淡水魚は蓄積する。
~水産生物は、放射性セシウムをカリウムなど他の塩類と区別できずに環境水(海水・淡水)や餌から体内に取り込み、自然に体外へ排出。
~海水魚は、体の中の塩類を排出させる機能が働くことから、海水の放射性セシウム濃度が低下すれば、魚対中の放射性セシウム濃度も徐々に低下。
~淡水魚は、体内の塩類を保持しようとする機能が働くことから、海水魚よりも放射性セシウムを排出しづらい。
~無脊椎動物は、塩類が海水と体の中を自由に行き来しているような状態なので、海水中の放射性セシウム濃度が低下するとすぐに体内の放射性セシウム濃度が低下。
講演は、福島沿岸の海水の放射能濃度が下がらないのは流れ出ているということが言えるということも説明された。(福島第一原発の周辺2013年5月に1ベクレルであるが、およそ一年前からこの濃度であり、事故前の2008年には0.002だったことで推定される)
まとめとして①日常生活では、正しい科学的知識と情報を持って、科学的に冷静に対処する②政府に対して正しい情報の開示と事故原発システムの環境からの完全な隔離を要求することを求めようということだった。